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その日

2017年2月3日。



冬の晴れた日らしく冷え込み、朝はマイナス5度。
だがミルクロードに雪はなく阿蘇五岳、くじゅう連山は元より
祖母・傾までキレイに見える。
日中は気温も上がり絶好のドライブ日和だ。


そのネコがやって来たのは2011年の8月13日だった。

庭でハーブを摘んでいるとチョコチョコとやってきて
いきなり膝の上に乗ろうとする猫がいた。
数日前、息子が子猫がいた!と連れて来た野良猫だった。

エプロン姿の私は振り払うが、お盆ということもあり邪見にできなかった。
人の行動をジッと見る姿は、どこか死んだ婆ちゃんに似ていた。


2011年8月17日

その日の午前中、佐々木さんという女性が旦那さんと
アップダウンのキツい、ファームロードを自転車で走って来た。

「マツさん!以前走った、道から川に降りれるところってどこでしたっけ?」
「それは、そば街道で、そこのヤンマーを曲がって行ったとこ」
と伝えるとじゃあ!と言って店にも寄らずに去って行った。
「これくらい登れなくてどうするの!」という旦那さんを叱咤する言葉を残して。

そんなことがあったすぐ後にやってきた、当時はまだほっそりとした三毛猫を
冗談で「ササキさん」と呼んでいたらそのまま定着してしまったのだ。

一応これでも飲食店なので、野良猫が出入りするのは良くないと
店内には入れなかったのだが、いつの間にかお客様と一緒に入って来て
隅っこにちょこんと座っていた。

棚やテーブルに登ったりという悪さをしない。
だから雑貨を壊したり食べ物に手を出したりということがない。
人のすることをジッと見ていて撫でられるのを待ってる。


これなら店にいてもいいかも...と思っていた矢先。
やってきて4週間目、9月のある日パタリと姿を見せなくなった。

家に帰ったのかな、飼い主が連れて帰ったのかな..と心配していると
さらに4週間後の10月、ササは怪我をしてボロボロの姿で現れた。
すぐに病院へ連れて行き、同時に避妊手術をしてもらうことにした。
飼うことを決め、まずは店の外の棚に専用の寝床を作ってやった。


2011年11月1日

おっとりとした性格で、動じない。
寝床ごと下に落ちても、動じない。



人が大好きで特に子供相手だとテンションが上がり
柳の木に登ったりオーバーアクション気味になる。
まるで「こんなことできるのよ!スゴいでしょ!」と自慢しているかのようだった。

冬になり寒くなってきたので家にも上げるようになった。
当時小学5年生だった息子と寝るササ。
自分から布団に入って来て、その態度はないだろうに。


2011年12月23日

毎朝、5時半に私を起こし生エサを催促し、食べたらお出かけ。
そして専用の入口を作ってもらってた向かいの家のオジさんの布団に潜り込む。
オジさんが仕事に出ると、うちに帰って来てゴロゴロ。
しかし、猫って新聞読んでると乗って来るのは何故だろう...。


2012年6月16日

店に行くときに一緒に出かける。
階段を、ひっくり返りながら滑り降りていくのが大好きで
それをサポートするのが(しないと、えっ?って顔される)毎朝の日課だった。


2012年7月25日

店で過ごすときは、窓から外をチェック。
パトロールに出かけ帰って来るとエサを食べ昼寝。
出る時もエサ待ちも全然催促しない、扉の前で、エサ入れの前でジッと待つだけ。
本当に行儀の良い子だった。


2014年8月22日

夕方店を閉め「帰るよ!」と声をかけるとスタスタと歩いて来て一緒に帰る。
買い物に行くときは車庫でお見送り、帰って来るまで待っていた。
自転車のトレーニングに行く時も見送ってくれ、当然のように待っていた。


2014年12月31日

たぶん、中身は犬だったんだと思う。
猫は気まぐれというが、私の方がよっぽど気まぐれで迷惑をかけていた。


2015年11月6日

いつも店の入口の丸太に乗って看板ネコの仕事をしていた。
ここで多くのお客様に頭を撫でられてご満悦だった。


2016年1月29日

息子が熊本市内の高校に進学してからは、ササが生活の潤いだった。
地震のとき動物は避難所に入れないので一緒に車中泊で過ごした。
麻ヒモで繋いで散歩したりして、それはそれで楽しそうだった。


2016年4月19日

ササの写真はたくさん撮ってるけど、私と一緒に映ってる写真はあまりない。
元気な姿を納めた最後の写真は偶然私とのツーショットだった。


2017年1月15日

1/19(木)いつものように一緒に家を出た。
いつものようにゴロりんと階段でひっくり返るのでハイハイと言いながらお腹を撫でる。
ただ休みだから店には行かない。

出かける前にちょうど生エサがなくなり、もっと食べたそうだったけど
最近太り気味だったのでガマンさせた。
あのときお腹いっぱい食べさせていれば良かった。
そうしたら、時間がズレて事故にも遭わなかったかもしれないと思うと
悔やんでも悔やみきれない..。

お昼は向かいのオジさんのところにいて、午後は出かけたそうだ。
そして帰って来ないので探していたが見つけられず、偶然隣のHさんが事故を見て...
(そのときの様子は以前のブログに詳しく書いています)

助けてくれたHさんはその3日後、旅館で運悪く脚立から落ち右腕を骨折した。
事故のときあれだけ世話になったのにどうして!と思ったが
同僚のMちゃんが「頭を打たなくて利き腕の左じゃなかったのはササのおかげ!」
と言ってくれた、なんてポジティブで気の優しい子だろう。



2月2日の休み、午前中病院へ見舞いに行くと夜は連れて帰っては?と言われた。
夕方まで時間をつぶすために本屋に行くと紀伊国屋にササがいた。


2017年2月2日

よく見えないかもしれないけど、右の黄緑色の本の表紙の中にササがいる。
表紙を飾ったカバーガール、TV取材のときもいつの間にか出ていた。
じゃらんに店のことより大きく載ったときは
「雑誌を見てササキさんに会いにきました!」とファンを増やした。


夕方、車に乗せて連れて帰ると気分が変わったのか、顔つきが穏やかになった。
昔は車が大嫌いで乗ってる間中「みぃ..みぃ..」と不安げに鳴いていたのが
あの車中泊以来、好きになったようだ、隙を見ては車に乗るようになった。


2017年2月2日

そう、ササの鳴き声を聞いたことある人は少ないと思う。
飼い主でさえ、1日に1回聞くかどうかだった。
外から帰って来たのに、しばらく家に入れなかったとき
「ニャニャッ!!ニャッ!」と抗議の声を上げるくらいだった。

それと聞こえるか聞こえないくらいの、かすれた声で「アー」。
どうやらこれは子猫が親猫に甘える時の鳴き方のようだ。


夜、家で点滴に繋がれたササはとても苦しそうだった。
寝ずに看病する、5時半くらいにとても苦しそうだったので首の包帯を緩めた。
あとで聞くとその頃、向かいのオジさんはササが来た音がしたと言っていた。

6時には落ち着いたので峠は越えた!と思った。
8時半過ぎに家を出て病院へ向う。
昨日のブログに書いた病院まで無事に送り届けるという目標を果たせたと思った。

ササの気分も悪くなさそうで、少し安心する。
ミルクロードを走り唯一の信号を左折し兜岩展望台の手前、時間は9時過ぎだった。

急に苦しそうに大きく口を開けたあと動かなくなった。
すぐに車を停めて、心臓マッサージをする、息を吹き返した!
でもまたすぐに息をしなくなる。

2回、息を吹き返した。
でも、それ以上は無理だった。

交通事故のあと誰にも見つけられず死んでいたかもしれないササが
皆の助けのおかげで最後は妻の腕の中で、この世を去ることができた。


2017年2月3日

そこから引き返し家に帰った。
借りていた点滴の機械や注射器を取りに戻るためだ。
ちょうど向かいのオジさんが帰って来ていたのでお別れが出来た。

オジさんは入院中、ササに会うことを目標に病気を克服したくらい
ササのことが好きだった、お孫さんたちもササに会うのを楽しみにしていた。


もう道を急ぐことはない。
病院に連れて行き身体中から出ていた管を外してもらう。
先生の好意でキレイに洗ってくれ丁寧にブラッシングまでしてくれた。
手術のために毛があるところが少なくなっていたけど...
出来る限りのことをしてくれた先生にお礼を言い病院を後にする。

これでゆっくり眠れるね、痛くないね。
2回の手術に耐え、私たちに希望を与えてくれたササ。
多くの人が支えてくれ応援してくれてた。


もう5時半に起こされることはないし
休みの日にササが待ってるから早く帰らなきゃ!と急ぐこともない。
泊まりがけで、どこかへ行くのも気にしなくていい。

でも動けなくなっても、手がかかったとしても
もっとササと一緒に暮らしたかった。
この5年半、本当に本当に楽しかった。


2016年12月29日 息子の冬休みの宿題のジャマをするササ

今このブログを書いている瞬間もササが私をジッと見つめ
お尻をプリプリと振って膝の上に飛び乗って来るんじゃないかと思ってしまう。

そして、しばらくは店の入口や軒下にいるんじゃないか?と探してしまうだろう。
事の次第を知らないお客様に「今日ササちゃんは?」と聞かれることがあるかもしれない。
全てを受け入れるには、まだしばらく時間がかかることだろう。

ササを助けられなかったと泣き崩れる妻に義姉が
「あなた達に拾われなかったら、とっくに死んでいたと思うよ」
「ササは最後まで幸せだったじゃない」と言ってくれたのが救いだった。



ある日突然やってきた風変わりなネコの名前は、ササキさん。
皆さまに可愛がっていただき、本当にありがとうございました。
たくさんの励まし、お見舞い、写真集の購入もありがとうございました。
心より感謝の言葉を申し上げます。

もう店にはいないけど
たまにササのことを思い出して頂ければ嬉しく思います。



2016年4月30日 震災後の救援物資の上で寝るササ

ササよ、安らかに。



2/8(水)は展示会のためお休みをいただきます。
2/9(木)と連休になりますのでご了承下さいませ。